さて、キーちゃんが旅立ったその日の話に戻ります。
親方の1日はキーちゃんのおなかの消毒やネブライザーや胃ろうに費やされていたのに、もうそれをすることがなくなって、ちょっと拍子抜けというか、一人置いてけぼりをくらったような、なんとも切ないぼんやりした気持ちでした。
でもまず「キーちゃんをどう荼毘に付すか」問題を片付けねばなりません。
それはある程度覚悟していた頃から考えてはいたことですが、シスのお友達を参考に、「火葬車」を頼むことにしました。
昔はそんな車ありませんでしたね。
うちは親が市に頼んでいました。
市に頼むと、焼かれる場所はゴミと同じなんだとは思いますが、引き取りに来てくれたおじさんが、大事なうちの子の亡骸の入った箱を持ちながら、角を曲がるところで振り返って深々とお辞儀をしてくださった時、親方は子供ながらに感銘を受けました。
今はペット霊園とか、いろいろなペットサービスが盛んで選択肢も多いですね。
お骨にキーちゃんがいるわけでもなんでもないですが、ただキーちゃんがこの世に存在していたからだの名残を側に置いておきたいので、親方はお墓におさめる気はなかったですし、お迎えに来てまた届けてくれる火葬車が便利なのでした。
そのうち仕事帰りにワケーノとワカクネーノがお通夜に来てくれると連絡が入ったので、部屋の掃除もしないといけなくなりまして。
何しろキーちゃんの看病状態の部屋でしたので、お布団やら毛布やらもう何もかもが部屋に置いてあって、こりゃ忙しいって片付けたりビールを買いに行ったりしてワサワサと過ごしました。
その合間合間に、ベッドで寝ているキーちゃんが生きているみたいでハッとする、そして「あ、亡くなっちゃったんだった」と思い出す、きーちゃんをなでる、キーちゃんの匂いを嗅ぐ、キーちゃんを愛おしむタイムがちょいちょい挟まれます。
キーちゃんは窮屈なお洋服を脱がせてあげていたので、毛布の下は久々の裸ん坊状態です(笑)、おなかからチューブが出ている裸ん坊です。
その日から気温が暖かくなってきたので、保冷剤を周りにおいてあって、冷たいけどごめんねーと言ってはなでる、嗅ぐ、頬ずりする。
そんなこんなで夜、ワケーノとワカクネーノさんがかわいいお花と天然のヒラメのお刺身を持ってきてくれました。
キーちゃんの大好きな天然のヒラメ様よ!
もう食べられないからそんなご散財しなくっていいのに〜。お心に感動。
おつまみに出そうとしたら、キーちゃんのだからと遠慮するので、ちょっとだけつまみに出して、キーちゃんと一緒にあれこれよもやま噺をしました。
キーちゃんは二人に撫でてもらいました。
そして彼らが帰る段になり、お見送りに廊下をついていきながら、親方はあろうことか、なんと、
「キーちゃん、(二人が)やっと帰るよ〜」と叫んだのです。
ワケーノは「えぇ!?」って思ったそうです(笑)
そりゃそうだ、わざわざ遅くに弔問に来てくれたのに「やっと帰るよ」は無礼千万、人道にもとるセリフです。
でもこれ、実は来客が苦手なキーちゃんに、シスが帰る時いつも「ごめんね〜、やっと帰るよ〜」って言ってて、私も一緒にそう言い言いしていた癖が出たのでした。
事情を説明して二人の誤解は解けましたけど、今でも時々思い返しては一人でウケます(笑)。
失礼すぎるよ、親方。