手術の前日、キーちゃんは、自分が好きだった場所を一つ一つ点検して回ったんです。
親方はキーちゃんがもう帰ってこられないんじゃないかって、ちょっと心配しちゃいました。
さて、今回もワカクネーノさんの車に揺られて出発。
ワカクネーノさんの運転はワケーノも親方も酔っちゃうんですけど、キーちゃんは酔わないんです、すごいね。さっすが強い子じゃ。
キーちゃんゴフォーゴフォーって相当落ち着きなかったですね。息苦しかったんだと思います。
電車なら2時間半の距離、車でどのくらいだったかな。
専門医の先生の病院は、ご自宅とつながっている戸建ての病院でした。
1Fが受付と待合、2Fに診察室や処置室、入院設備などが整っています。
受付で手続きをして待っていると、階段から先生が下りてこられました。
ちょっとご挨拶して、キャリーにポリープを押し付けちゃうから血がついてる話をちょこっとしたら、「えっ!? ポリープが鼻から出ちゃってるの?」って驚かれた後、ファーストクラスキャリー越しにキーちゃんを見て、しばし絶句され・・・その後小さく「えー」ってため息を・・・
ひーーーえーーーー、ここへきてまさかのご反応!
そして鼻血が出ていることもご存知なかったみたいで、一気に緊張感漂う険しい顔で考えられながら、とにかくキーちゃんを受付後ろのお部屋のケージにキャリーごと入れました。
興奮しているので少し落ち着いてもらいましょうと。
その後、しばらく待っていてくださいと言われ、先生は階段を上がっていかれました。
そっからが長かった。1時間近く待たされました。
先生の絶句とあの表情の後でこんなにも待たされるので、不安は否が応でもつのりますわな。
でもその間にキーちゃんの検査などをされていたようです(ふーびっくり。検討だけでそんなにかかってたら心臓止まります)。
そしてようやく2Fに呼ばれました。
親方が発症から今までの道のりをことこまかに説明した後で、先生はこのようなことをおっしゃいました。
鼻咽頭ポリープと聞いていたのでその準備をして待っていたが、これは鼻咽頭ポリープではない。
炎症性鼻甲介ポリープ(猫鼻腔内間葉性過誤腫)という、極めて稀な病気と思われる。
七年前に来院されたミミコちゃん(というお名前だったと思います)というサビ猫さん、その一頭だけが「炎症性鼻甲介ポリープ」だった。
(先生はその時海外の文献も精査しまくられ、知識とご経験があったんです。)
鼻甲介(鼻の中のひだひだ)自身がポリープに変異してしまう「過誤腫」と言われている。一種の奇形とも言える。
日本では報告例がない(当時はミミコちゃん以外ってことですね)。人間の赤ちゃんには報告例あり。
ただ、イタリアだけでは比較的見られる病気(北米でも少数報告あり)で、軽症の場合は予後が良い病気(予後が良い!親方心の中でリフレイン)。
何故イタリアだけなのかは不明ながら、遺伝的要素が強いらしいことまではわかってきた。
このポリープには引き抜きが有効と言われている(根からそっと引き抜くんです。一つ一つ)。
通常は片鼻で発症。
ミミコちゃんは重症だったが、片鼻だった。ミミコちゃんの場合は鼻中隔(真ん中の骨)まで冒されていたため、開鼻手術をした。
ミミコちゃんの症状の写真やお鼻を開いた写真を見てひるみましたが、術後とってもきれいになった写真もお見せいただき、こんな風に治るのだったらお願いしますと安心できました。
ミミコちゃんも白血病陽性。白血病ウィルスとの関連性はあるらしいことが最近分かっている。
ミミコちゃんは術後7ヶ月後に悪性腫瘍を再発。良性ポリープが悪性に変異したのか、新たな発症かは不明ながら、最後は脳に転移して亡くなった。
ポリープ自体が出血性(それで鼻血が止まらなかったですな)。
ただ、キーちゃんのように両鼻という重症は、海外の事例でも見たことがない。
わーおー。
まさに一喜一憂。
ま、そんなお話しでした。
猫さんの頭の構造。ネットからお借りしました。
鼻腔の上はもう脳なんです。手術には危険が伴う場所です。ミミコちゃんみたいに悪性腫瘍ができたら、脳にも転移しやすいんです。
さて話戻しまして、
もちろん、症例報告はないと言っても、発症事例がないということではありません。
どこかのノラさんが密かに発症して亡くなったこともあるでしょうし、獣医さんがなんだかわからず診断がつかなかった症例もあるでしょう(腫瘍センターでもわからなかったくらいですからね)。
いずれにせよ報告例が上がらないくらい、世界的にも極めて稀な難病でした。
キーちゃん、スケールが違いすぎるよ。
それにしても、その7年前のミミコちゃんがこちらに受診してくださっていたおかげで、この先生にとっても予定と違った急な事態にもご対応いただけた訳です。ミミコちゃんがこの病院にたどり着いてくれて大感謝。
もしミミコちゃんがいなかったら、即日手術は無理でしたね。
そしてなんと日本でこの病気を診断できる唯一の先生に出会えたことは、心から大大ラッキーでした。
大げさでなくそうなんです(先生も認めていらっしゃいました)。
医療センターでもこの先生の論文を参考にするしかなく、また「獣医大学界の東大」にも先生が関わられているので、もし「東大」に行っても結局こちらをご紹介いただいたと思いますし、後から分かりましたが、サードオピニオンを取りかけたカリスマ病院にも、この先生が研修講師で行かれていましたので、もしかしたら結局こちらの先生をご紹介されたかと。
そして、センターでのMRIとCTなどの検査結果がとってもとっても有効でした。両方撮ってあって大正解だったのです。
何と言っても、この長い道のりで初めて病名がついたんです。もーのすごい進展。
それがとんでもないスーパーとんでも難病だとしても、初めて診断していただけたことは本当に感無量といったところ。
キーちゃんは4月には5キロあった体重が、9/1の受診時点で3.6キロまで落ちていました。
そしてさすがについに貧血傾向にありました(毎日食べずに鼻血出してましたからね)。
特に胸の外骨腫は大きくなっていましたが、肺機能に問題がないこともわかりました。
そしてこの後、出血に備えて病院の供血猫さんからの血と合うかどうかを調べたり(合わなかったら輸血できないので手術できないとも・・・)、さらにいくつか追加の検査や準備をしてから、いよいよ手術という段取りになりました。
先生のご報告を引用させていただくと、親方が受けたインフォメーションはこういうことになります。
非常にまれですが、猫の炎症性鼻甲介ポリープの疑いがあります。
本疾患は、最近の報告より過誤種の一種と考えられており、切除すれば予後良好です。
ただ、過去に当院で経験した猫の炎症性鼻甲介ポリープは、術後呼吸状態は速やかに改善しましたが、7ヶ月後に悪性腫瘍を後鼻孔に発症し、経過要注意です。
もし、この疾患なら現在の状況は手術によって改善できるとは思います。
手術は、鼻腔には鼻背側面を、鼻咽頭には口を開けて軟口蓋の一部を正中切開してアプローチしてポリープをできるだけ全部切除し、鼻道を開存させます。
手術の危険な合併症は出血ですので、術前に血液を用意しておく必要があります。
また、咽頭手術を行いやすくするため気管切開して術中気道確保します。
また、手術自体が完全に鼻道を開存させて終了することができるかどうかは分らないし、鼻や咽頭手術は術後粘膜腫脹によって上気道閉塞が生じる可能性があるので術後気管切開チューブを設置します。
これによりどのような手術の結果であっても、覚醒時に呼吸困難になることはありません。
もし、うまく上気道開存が得られたら、術後1-2日で気管切開チューブは無麻酔で抜去できると思います。
術後、1週間位の入院期間を考えておいてください。
後期合併症としては、ポリープの再発です。
まれな疾患であるため、病態がよくわかっておりません。定期的な診察や検査が必要となるかもしれません。
鼻咽頭ポリープなどでは、ポリープ切除後、慢性腹鼻腔炎症状が続く事があります。閉塞して貯留していた鼻汁が流出するようになるからです。
キビちゃんもそのようになる可能性が高いと思います。この場合、在宅ネブライザー療法を1-2ヶ月続けると、粘液性の鼻汁が溶解し次第に消失していきます。